社会人MBA-技術者編

January 9, 2011

映画『アンストッパブル』―熟練の人材とスタントンの急カーブ

映画の中で、“魔の急カーブ” と言われるカーブがある。

”スタントンの急カーブ” ―――このカーブは、列車はかなりの低速で走行しなければ、曲がりきることが出来ない程の急曲線である(写真は無関係です)。

物語は、ちょっとした運転士のミスからはじまる。それはいつの間にか増幅され、やがて、ブレーキの不完全な無人の列車が、化学物質、ディーゼル燃料を積載し、限界スピードを超えた状態で、そのカーブへと差し掛かる。脱線、転覆すれば、その被害は計り知れない・・・

トニー・スコット監督、『アンストッパブル』公式サイト
-> http://movies.foxjapan.com/unstoppable/


*本ブログでの映画紹介はここまでです。

*  *  *  *  *
さて、この危機に立ち向かうのは、すでに解雇を告げられているベテラン機関士と鉄道一家出身の新米車掌である。

本記事では、“熟練の人材”について述べていく。

熟練の人材を失う怖さ―特に自然減ではなく、人員整理によるものは大きなリスクを伴う。

映画の中でも、ベテランをクビにして、多くの若手を採用することに触れていたが、それは、人数は増えるが、経験知を失うことを意味している。

もちろん、企業が、一律○○%の固定費削減などを打ち出し、人員削減に踏み切ることが悪い方法であるかどうかを問うているわけではない。

ここで述べるのは、経営陣の進める施策と従業員の有機的成長との時間差の問題である。

仮に10人のチームで10%の人員削減があれば、9人となったチームは10人分の仕事を背負うことになる。業務を数値に単純化できないが、話の流れとしてその数値化を採用すると、9人は約10%強の業務の負担の増加となる。

労働時間が変わらないとすれば、9人は効率を高めるため、何かしら、成長しなくてはならないのである。それまでは、原則、残業となる。


さて、仕事ができる人、そうでない人との差は、実はそんなに大きくない。もちろん職種にもよるが、単純労働ほどそうである。ベテラン社員1人のアウトプットはアルバイト3人には敵わない。

おそらく、余程の創造性や深い見識が必要な職を除いては、できる人とは、標準的な人を100とすれば、せいぜい120-130程度である。

何が言いたいのかといえば、先ほどの10人チームにおいて、次に8人となってしまえば、従来の仕事量の25%増量をこなしていかなくてはならない。


これだけ効率を高めようと人的な効果を求めれば、かなりの期間と教育が必要なはずである。

だが、この施策を打ち出した経営陣は、しばらく―――経営陣にしては長い、従業員にしては短い期間―――、特に問題がなさそうなので業務が遂行されていると錯覚する

従業員側からすれば、能力を高めなければ、平均的に25%の労働時間が増加する。だが、25%もの効率を高めることを習得するには、逆に教育を受ける時間が不足している*。
*もちろん、給料面の削減なども実施するので、単純ではない。

さらに進めば、チームは業務を維持しようと、流動性の高い労働力を使用し始める。特に、そのような労働力の是非はともかく、創造性のあるアウトプットが求められているのであれば、チームとしての求心力が損なわれ始める。

それは、企業理念や、当該組織を良くする、守る、などといったことを中心化しにくくなるからである(流動性の高い従業員にそれを強要できないので)。

建前であっても、本来中心化しなければならない事項より、金銭的な面が優先されれば、事故は大きくなっていく。


「我が社の損失はどの程度か?」
「株価はどの程度下がると推測されるか?」


映画での経営陣のやりとりである。もちろん、上記のことは大切なことであるが、映画での描写が訴えているのは、「列車事故による従業員や市民の被害を最小限にするには」という命題から出発していない議論である。

事故―――熟練が離れていくと、考えにくい小さなシグナル、例えば典型的には工場では小さな事故が増加してくる(難しいことを当たり前のようにこなして未然に防いでいた事柄は、新米にはわからない)。

組織内では、仕組みやシステムの重要性を説きながら、結局は、無理な人員削減で、経験知を継承することなく、(従来の熟練にそうしたように)パーソン・スペシフィック(人材次第)に過度に傾倒してしまうので、皮肉なことに、熟練の経験知がアキレス腱となってしまう(習熟曲線が追いついていない)。

やがて、その企業や事業は、そこでしか出来ないことに価値があったのに、誰でも出来る仕組みを目指したが故に、ただただ、固定費の安い方向を目指し、スピードを上げていくしかなくなるだろう。

スタントンの急カーブ――アナログ的な習熟曲線の形成を大切にしてきた伝統的な日本企業の中では、現在の変化する環境下で、どれくらいの企業が曲がりきれるのでしょうか。。。


・・・「松下電器は人をつくる会社です。あわせて電気製品を作っています」(松下幸之助)


*とても長い記事になりましたが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。

注)本記事の最後の言葉は、以下の書籍の「第5章人材とは?人生とは?」p182 を参考にしています。



写真)無料HPテンプレの素材屋 より。
順に、「遠くまで続く鉄橋素材」、「真下から遮断機素材」(場所は、ホーム>道路・標識・鉄道の風景、の中にあります)


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