経営状態が変わっても「整備」の質は変われない。

2010年1月24日

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日本航空の経営再建―法的整理、1万3千人のリストラ[1]や、CEOの後任[2][3]など、再建に向けた報道が多くなされている。

経営再建の戦術やCEOの資質などは、多く議論されているので、ここでは、「整備」という業務をキーワードに述べていきたい。


多くのモノづくりの企業では、定期点検、保守、PM(Preventive Maintenance;予防保全)など、言葉は違うだろうが、このような業務が行なわれていると思う。


航空機に関しては、JALによれば、そのホームページで紹介しているように、その方式に、「ハードタイム、オン・コンディション、コンディション・モニタリング」という方式が「構成部品や装備品個々の重要性,信頼度,構造などに応じて」適用されている。
JAL;「航空実用事典」,[7]整備 2.整備方式、より。

詳細を以下に引用する。

*   *   *   *   *

2.整備方式 maintenance system
(1) 整備の概念(maintenance concept)
最近の航空機の整備では,構成部品や装備品個々の重要性,信頼度,構造などに応じて,「ハードタイム」,「オン・コンディション」,「コンディション・モニタリング」の三つの整備方式のいずれかが,もしくはそれらが組み合わされて適用されている。

a. ハードタイム(HT:hard time):
一定の時間を定めて,定期分解手入れをしたり,部品・装備品を交換・廃棄する方式。定期的に分解手入れ,あるいは廃棄することが有効と分かっている部品や装備品などに適用される。従来から行われているオーバーホール(overhaul)は,この方式に含まれる代表的な整備方式である。
b. オン・コンディション(OC:on-condition):
定期的に点検,試験を行って品質を確認し,不具合な箇所があれば,部品交換,あるいは修理に適切な処置をとる方式。状態の良否を判定することが適当な,機体構造,諸系統および装備品に適用される。
c. コンディション・モニタリング(CM:condition monitoring):
定期的な検査や手入れをせずに,発生する不具合状態に関する情報を解析・検討し,随時的確な処置をとってゆく方式。そして部品や装備品の信頼度をグループ全体として監視し,一定の品質水準を割るような場合に,適切な対策処置がとられる。故障を起こしても安全性に直接問題のない一般の部品や,装備品に適用される。この整備方式を採用するためには,「信頼性管理体制」の確立が前提として要求される。

(引用終わり)

*   *   *   *   *

航空機では、御存知のように、事故はすべて人命が危険にさらされるポテンシャルを有している。機材ばかりでなく、医師のいない上空では、食あたりでさえ、医療行為が受けられないゆえ、事態は深刻化する*。
*食あたり:機内食の衛生管理は厳重です。例えば、株式会社ティエフケーの特集ページ

また、機材や装備品の品質管理、いや航空機の品質管理は、その責任者は講演会が開けるほどである。

さて、経営状態の悪化(=予算の削減)による、「整備」や一般的な工場での保守、点検では、航空機、自動車、電機など業種に関わらず、質がどうこうというわけではなく、その予算だけの「整備」しかできないものである。

一般的な話として、最も恐れることは、同一の構成部品や装備品においてであるが、その管理を「ハードタイム」から「オン・コンディション」に切り替えることである。

ある部品や装備品の交換頻度が低下すれば、その分、確かに、ある費用は使用せずに済む。

だが、その交換頻度はどのように決められたのだろうか?


ある期間を超えると、それ自体ではなく、他の工程へ影響を及ぼすかもしれない。
何かにせよ、必ず理由はあるはずである。


さらに、予算が低下している中、「発生する不具合状態に関する情報を解析・検討し,随時的確な処置をとってゆく」ことは逆に難しい。

エラーが人命に関わりにくい、または全く関わらない製品(=FMEAで分析される深刻度が高くない)であれば、その部材、装備品はエラーが起こるまで(例えば、壊れるまで)使用されることだろう。


結局は、ハインリッヒの法則(1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在するというもの:Wikipedia)が作用しにくい方法で管理しなければ、エラー率は、たいていは事故が起こる方へ変動してしまうのである。


特に、航空機に限って言えば、ホテル業界とコスト構造が似ている面があり、顧客が一人でも満員(満室)でも、ほぼそれに関わる固定費用が変わらない。現在の安全性を確保するのであれば、「整備」の質は変えることは許されない。あまり、こちら(整備面でもコスト削減)に目を向けないほうがいいのかもしれない。


それでも、1万3千人のクビを切らなければならないのだから。。。


たいていの場合、このような事態に陥っている、あるいは陥りかけている企業の従業員は、すでに疲弊している。ひとつのミスが重大な事故を引き起こす航空機産業においては・・・


おそらく、「再建」となると、優先順位が高いのは、意識改革などではなく、航空再建のプロフェッショナルであろう。(それだけリストラされれば、意識は変わります)


・・・コスト削減において、さらなる追加の「一律○○%カット」は、すでに疲弊している従業員の神経を逆なでるだけにしかなりません。



*くれぐれも、JALの整備がどうなるという記事ではありません。



<参考資料>
[1]「日航に更生法協力要請、国交相、3メガ銀、了承の意向、首相『OB・株主も責任』」, 日本経済新聞夕刊, 1面, 2010/01/12.
[2]「日航CEO、京セラ稲盛氏に要請、政府と支援機構、週内にも回答」, 日本経済新聞, 1面, 2010/01/10.
[3]「日航CEOに稲盛氏、国交相、「社員の意識改革期待」,日本経済新聞, 2010/01/14.

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