リチウムイオン電池―日本企業はイノベーションのジレンマを克服できるのか。

2011年2月20日

つれづれ 電池の話

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炭鉱、鉄鋼、半導体・・・過去を遡れば、これらのワードは時代を代表するもので、将来を約束されたようなイメージが浮かぶ。

思い起こせば、学生時代・・・半導体の研究をしていた私は、研究グループの教授から「半導体をやってれば、一生安泰だよ」と言われたことを思い出す。

実際、半導体とは言っても、分野が広いので、確かに企業においても開発の火は消えていないが・・・。

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さて、現在では、そのワードは“リチウム・イオン電池(Wikipedia)”であろう。今後の将来予測において、車載用、産業用の用途はどこもアグレッシブなものとなっている。

この産業は、素材にせよ、組立にせよ、日本企業の独断場であったが、現在、巨大化した日本企業は、典型的なイノベーションのジレンマ*に似た状況を迎えている。

    * イノベーションのジレンマ―― 業界を牽引してきた有力な既存企業が、技術変化に伴う新市場への対応を、従来通りに対応してしまい、新市場への対応能力を高めてきた新興企業の前に力を失ってしまう事態。

振り返れば、主に携帯電話、ノートPCの電源として、地道に、安全性を損なうことなく電池の容量を高め、顧客要望に応えて来た電池産業―――その漸進的な技術開発のネットワーク先は、携帯電話やノートPC組立産業に加え、自動車産業が加わってきた。

特に、この10年の変化は、市場全体の90%以上を占めていた日本企業は、その半分程度の勢力になってしまうものであった**。この変化は、とりわけ組立産業(素材メーカーではない)には、厄介な構造変化であったものの、現在では、例えば、新たなネットワークとなった自動車産業との協力体制など、ほぼ態勢が固まりつつある(しばらくはこれで進むだろう)。とはいえ、電池市場自体の成長に助けられていることは否めない。


イノベーションのジレンマ――日本企業にとって破壊的に成りうるのは、①新興企業の進出、②新製造方法の出現である。

①新興企業の進出
現在の状況を概観すれば、技術的には日本企業群に、投資規模的には(サムスンなど)韓国企業が優勢である。アグレッシブな環境は、主に中国政府の車載用(公共用など)電池の推奨政策にある。

新興勢力が力を発揮するには(既存企業が対応しにくくなるのは)―――数多くある新興企業の中には、資金が豊富な企業も少なくない(特に中国企業など)。ならば、ある程度実績のある企業との合併や買収で大きくなれば、既存企業が構築してきたネットワークを簡単に手に入れることが出来る。

特に、このケースは中国に限られる話かもしれないが・・・。


②新製造方法の出現
一方で、以前の記事のレポートにもあったクラスター化している日本の電池産業―――新たな技術の発明を生みだす環境は整っている。

その日本企業の技術的な脅威は、かつての鉄鋼業界でもみられた、現在の電池品質にはとても及ばないが、それを製造する際の革新的製造方法――例えば、低価格、製造工程が半分など――の出現である。

そういった方法は、いずれ、製品自体の品質も高くなるようにカイゼンされていくので、底辺の市場から徐々に高品質市場をも席巻していく。


典型的なこのパターンは、(技術的に革新的ではないが)現在ではモジュール化であろう。品質向上は素材メーカーの持分として、素材さえそろえれば、簡単に製造できてしまう、というようになれば、組立を主要とする電池メーカーは対応できなくなってしまう。


とはいえ、典型的な“made in Japan”製品であるゆえ、日本企業の場合、素材の組合せ、製造工程での種々のノウハウなどがなければ、高性能かつ安全を満たすようなことは出来ないようになっているであろう。


数年後には、ビジネススクールで格好のケースになるであろう、この産業の構造変化とその対応。


・・・持ち運び可能なエネルギーを顧客に届ける――この競争はまだまだ熾烈です。


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