現在(2025.5.29時点)、大前研一氏が解説する「日米貿易交渉 40年の歴史とトランプ関税」のYouTubeが公開されています。
この動画は、過去40年にわたる日米貿易交渉の歴史を、大前氏が自身の経験に基づいて解説;特に、繊維、カラーテレビ、オレンジ・牛肉、ピーナッツ、サクランボ、鉄鋼、自動車、半導体といった具体的な品目ごとの交渉の経緯と、その結果としてアメリカが競争力を回復できなかったことを詳細に論じています。
本記事は、その備忘録です。
■ 備忘録1:日本の産業戦略の弱点は何か?
・受動的な姿勢:アメリカから問題提起や要請があると「柳のように」従い、生産拠点の移転や譲歩を繰り返したこと。
・技術供与による自滅:半導体交渉で国内シェア50%以上の強みを持ちながら、輸入義務を満たすため韓国企業に技術を教え、自社産業の競争力を損なった。
・農業の非効率な保護主義:市場開放交渉後もアメリカ産が入らず、他国産にシェアを奪われたり、自国産が競り負けたりした。自民党票を意識した「守る姿勢」が改革を阻み、食料自給率低下を招いた。
・交渉担当者の歴史認識不足:過去の貿易摩擦の経緯を知らず、トランプ政権下で「日本だけ関税撤廃を」といった低姿勢に陥り、対等交渉の機会を逸した。
■ 備忘録2 日米貿易摩擦の歴史において、アメリカの産業競争力はどのように変化したか?
・伝統産業では競争力を回復できず:繊維、カラーテレビ、農産物、鉄鋼、自動車、半導体といったこれまで交渉の俎上に上がった産業はいずれも、関税・数量規制など保護主義的措置を講じてもアメリカ国内の競争力を取り戻せなかった。
・21世紀の新興産業では圧倒的優位:「マグニフィセントセブン」などIT大手をはじめ、新産業分野では世界市場を席巻。イノベーション力やグローバル人材、起業・上場環境が支えとなり、アメリカ企業が世界トップを独占している。
・グローバル化を利用した消費者恩恵:Walmart、Costco、Amazonなどを通じて世界最安・最良の商品を大量輸入し、国内の物価安定と経済成功を実現。トランプ政権の「世界に傷つけられた」という主張とは逆に、むしろ世界を最大限活用している。
・対照的な構造変化:伝統産業では保護策が空回りした一方、新産業では開放と競争が企業力強化につながるという、日米貿易摩擦の歴史が示す二面的な産業競争力の変遷。
総じて、日米貿易摩擦の歴史で問題となった伝統産業に関しては、アメリカは保護主義的な手段を取っても競争力を回復できなかったが、現代においては新しい産業分野で圧倒的な強さを持っていると分析しています。
鉄鋼
自動車
■ 備忘録3 アメリカの貿易政策は、過去の歴史からどのような教訓を得られるか?
・保護主義は競争力回復に結びつかない:関税・数量規制などで繊維、テレビ、鉄鋼、自動車、半導体を守ろうとしても、いずれもアメリカ産業の競争力は回復しなかった。
・市場開放の後もフォローアップが必須:農産物市場などを開放しても、必ずしも米国産品がシェアを取れるわけではなく、商務的な後追い戦略が欠かせない。
・「フェアネス」の判断には構造要因を考慮:輸入額の多寡だけで不公正と断じず、人口規模など構造的背景を踏まえなければ逆に不当な政策になる。
・グローバル・サプライチェーンと労働コストを理解する:産業の移転や効率追求の現実を無視して国内回帰を目指すのは困難であり、大規模製造の国内再建はほぼ不可能。
・保護主義的関税はブロック化・紛争のリスク:歴史的に高関税がブロック経済化を招き、第二次大戦の一因ともなった教訓がある。
・経済強さの源泉は開放とイノベーション:低関税で世界中から安く良い品を取り入れ、IT・AIなど新産業でイノベーションを起こすことこそ、持続的な競争力につながる。
以上
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