TRIZ:生成AI時代における破壊的イノベーションの影響

2025年3月8日

04 設計の視点

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 Google Trendにて、”Disruptive Innovation”をワードに調査してみると、90年代後半に登場した破壊的イノベーションという概念は、いまだに多く検索されていることがわかります。

Google Trend;検索ワード「Disruptive Innovation」

 破壊的イノベーション(Disruptive Innovation);ある製品、サービス、ビジネスモデルにより、既存の市場や産業構造を根本から変えてしまうような様相、プロセスを指します。ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授によって提唱された概念です(簡単解説:イノベーションのジレンマ)。
*詳細は、種々のサイトでも解説されているので割愛します。


本記事ではTRIZと破壊的イノベーションの関係性について考察していきます。

TRIZを土台として、例えば、利用可能な諸方法との統合を考えたとき、具体的な方法に、シックスシグマ、QFD(品質機能展開)、タグチメソッド、TOC(制約理論)、VE(価値工学)、公理的設計などが挙げられています[1]。

おそらくは、これらのイノベーションは漸進的で親和性が高いものと考えられます。実際、筆者がシックスシグマを推進していたときのプロジェクトでは・・・というよりは、シックスシグマでは、測定フェーズ後に統計的な解析により課題解決に有意な因子を導き出すので、どうしても解決策はカイゼン、最適化が用いられます。

DFSS(Design for Six Sigma)においても、プロジェクトの当初より見直しが可能なケースでない限り、後に破壊的なプロセスを経るような選択は困難です。

その理由は、プロジェクトに選定されている段階で、既存製品の主要顧客が重視する性能において、わざわざ破壊的イノベーションの特徴である「性能を低下」させる選択をしないためです。

上記を考慮しつつ、TRIZがどのように貢献するか、また、破壊的な様相に対処していくかをリサーチし下表にまとめました(Gemini 1.5 Pro with Deep Research)。

*TRIZのいくつかの手法において記載しています。 

ツール・手法説 明破壊的イノベーションへの貢献破壊的イノベーションへの対処
矛盾マトリクス改善したい特性と悪化する特性を対比させ、適切な発明原理を導き出すためのマトリックス。39の技術的パラメータを縦軸と横軸に配置した表で構成されている。製品やサービスにおけるトレードオフを克服し、破壊的な価値提案を実現するためのヒントを提供する。破壊者が既存市場に参入するために克服しなければならない課題を分析し、破壊者が克服すべき障壁を描き出す。
技術システム進化のトレンド技術システムがどのように進化していくのかを示す法則。8つの法則から構成されている。将来の技術動向を予測し、破壊的イノベーションにつながる技術開発の方向性を示唆する。破壊者がどのような顧客層をターゲットとし、どのような価値を提供しているのかを分析し、破壊者のビジネスモデルの強みを見極める。
理想最終結果 (IFR)理想的な状態を定義し、そこへ向かうための解決策を考える手法。理想的な製品・サービスの姿を明確化し、現状とのギャップを分析することで、破壊的イノベーションの目標設定を支援する。自社のビジネスモデルの強みと弱みを分析し、破壊者に対してどのような優位性を持っているのかを把握することで、既存ビジネスの相対的な優位性を明確にする。


例えば、iPhone、Netflixでは、キーボードからタッチスクリーン、物理的な媒体からデータ配信など、発明原理で言えば、メカニズムを代替しており、確かにTRIZが垣間見れます。

TRIZがある問題を解決し、主要顧客にとっては取るに足らない「おもちゃ」のような性能を発現する製品(またはサービス)に至ったとすれば、それは、もしかしたら、将来的には破壊的な様相を示すかもしれません。

従って、大切な視点は、未来シナリオ、もしくは技術システム進化のトレンドの中で考察し、破壊性を読み取ることになります。

Jack Hippleは「破壊的イノベーションがどこで起こるかはTRIZの原理で予測可能であり、実際に既知の製品技術史と合致している」と述べています (Leverage disruptive innovation by following TRIZ principles - InnovationManagement)。つまり、TRIZの進化パターンを知ることは、新技術への置き換えによる破壊的革新を先読みすることにつながります。


これが読み取ることが出来ていけば、技術の発展の時間軸を把握でき、それは、破壊的イノベーションの速度を決定づける因子となり、当該組織は対応が可能となるでしょう。

ただし、「人気のある現代的分野の特定のもの(すなわち、IT(特にプログラミング)、バイオテクノロジー、製薬など)に向けた効果的なTRIZツールが欠如している。」ことには注意が必要です[2]。


ここで、TRIZ自体の展開を考えます。

[2]の内容をあえて逆説的にとらえれば(あくまで考察のためですのですみません);

市場のほとんどを占める中小企業では、TRIZマスターを雇う余裕はなく、また、そのほとんどでは、漸進的イノベーションの推進速度が高まれば経営的な利益を享受します。アイデア生成のチャネルが広がっている中、GPTsに代表される生成AIによるTRIZボットが圧倒的な「低価格」で、かつ「おもちゃ」のように使用できるとなれば・・・どこかの企業が成功例として経験してしまえば・・・90年代のTRIZ流行期に誕生したマスターや推進委員の引退がはじまり、善意のボランティアが増加すれば・・・

生成AIの登場により、TRIZはより手軽に活用できる時代を迎えつつあります。従来の高額なコンサルティングや専門システムに頼らずとも、多くの人がTRIZを学び、試せるようになったことは、イノベーションの裾野を広げる大きな可能性を秘めています。いずれにせよ、新たな普及のチャンスと捉え、生成AIと共存・活用する道を模索することで、TRIZのさらなる発展につながるのではないでしょうか。


・参考文献、サイト

[1] ダレル・マン , 中川徹, 「TRIZ 実践と効用 (1) 体系的技術革新」, 創造開発イニシアチブ, 2004, 第22章 未来に向かって より。
[2] Simon Litvin, "TRIZ Challenges and Approaches to Address Them", MATRIZ MeetUP on Promotion of TRIZ in the World, 2021(「TRIZの課題とそれに取り組むアプローチ」, TRIZホームページ)

・イノベーションのジレンマについて

*クレイトン クリステンセン, 玉田 俊平太(監訳),伊豆原 弓 (翻訳)『イノベーションのジレンマ 増補改訂版: 技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』,翔泳社, 2001.

DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2016年9月号, ダイヤモンド社;特集:イノベーションのジレンマ
Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2013年 06月号, ダイヤモンド社;Feature Articles 破壊的イノベーション


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エンジニアの視点から、品質技法、解析技術、生成AIについて発信しています。 (シックスシグマ・ブラックベルト、MBA)

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