7月の暑い日の夕方に起こった、ちょっといい話・・・。
*本記事に掲載している、人名、犬名は仮名です。
* * * *
「今日も暑いですねぇ」
「ほんとに」
外は35℃を超える猛暑日、夕方になってもまだ暑さは続いていた。
セミの声が耳につく。
そんな暑い日が暮れた頃、原田さんの様子が少しおかしい。
「うちのぺスがいない。」
ペスは原田さん家の愛犬である。老犬であり、長く家族に可愛がられてきた愛犬である。原田さんの異変に気づいたお隣の木山さんは、その時、木山さん家の愛犬を散歩しようとしていた。
「散歩しながら、見て来ます。」
と、いつもの散歩コースに加え、見回ったが、見当たらない。
近辺に大きな国道があるので、心配がつのる。
もう、2時間近くが経っただろうか、未だに見つからない。こうなれば、近所の人々も探し出す。この辺はペットを飼っている人が多い。
ペット仲間とは、犬の名前は知っているが、本人の名前を知らないなんてこともあるそうだが、その仲間も見かけてないそうである。
ペスは、老犬で最近体力が落ちてきている。だんだん、不安が大きくなる。
「ペスー!ペスー!」
「ウワン、ウワン!」
「ペス!?」
どこで鳴いているかがわからない。
声がする方へ近づいていくと、いやな予感がする。
「ペス!」
「ウワン」
(やはり・・・)
「いた、いた!」原田さんが叫んだ。
「えー!」木山さんはその状況に驚いた。いやな予感は的中していた。
排水溝である。
夕立のような雨が降れば、ペスは死んでしまう。
そこへ、たまたま木山さんの知合いの本田さんが通りかかった。
「本田さん!電話貸して」
「どうしたの?」
「ペスちゃんが・・」
木山さんは、古くからのご近所である山川さんへ電話した。山川さんは、内装などの仕事をしている人である。木山さんは、この排水溝を砕くつもりである。原田さんもペスを動かそうと努力したが、砕くしかないと決めている。
そこへ、消防が駆けつけてきた。その場所は、市の所有であるため、無断で手が出せないらしい。
もう、こちらが砕くしかない!
一同はこう思う。
(事後処理は何とかする)
そこへ山川さんが到着した。もう午後8時である。仕事の機材を持ち込んでいる。
その時、消防は素早く、市へ許可を取り付けた。
「電気、電気!」
排水溝向かいの家の方は、喜んで電線を自宅へ引き込んだ。電気は確保した。
ライトアップされ、作業が始まる。
「水!水!」
埃が舞う。排水溝の前の家の方が、ホースを用意して、埃を静める。
「ペスー、大丈夫か!」
どこかの知らないおじさんが、排水溝を覗き込み叫んでいる。
「これ飲ませたら?」
近所のおばさんが、ペス用に水を運んできてくれている。
「すみません、皆様、御迷惑をおかけして」
原田さんは、周囲の人に飲み物を用意してくださっている。
いやに暑い。
いつの間にか、多くの人が集まってきている。
「大丈夫か?」
「あ、見える、見える!」
近くの子供が喜んだ。
が、ペスは動こうとしない。人の手が届かない距離で立ち往生している。
「ウワン」
「おぉ、まだ元気だ」
作業は進む。
もう午後9時をまわっている。
思ったより、コンクリートが頑丈である。
が、ペスが少し動けるようになってきた。あと少しである。
犬は人間と違い、肩が引っかからない分、少し動けるようになると、後ろへ行くことができる。しかしながら、最近は歩くのもやっとの老犬である。もう何時間も閉じ込められている。
このままでは、ペスが閉じ込められている箇所を砕くには真夜中になってしまう。
体力勝負はペスには分が悪い。
ペスが動くしかない。
「ペスー!」
原田さんが、ペスの後ろ10m付近から、こっちへ来いとペスを呼ぶ。
ペスの頭の上では、コンクリートを砕く大きな音がしている。
(怖がって、後ろ向きで歩いてくれ)
みんな、そう思いはじめていた。排水溝を覗くとペスの顔が見える。
まだ、動けない。
その時、「ペスー!こっち、こっち!」
「あ!」
排水溝からペスの顔が消えた。後ろ向きで移動したのである。
「ペス、ペス!」
「ウワン!」
ドロドロに汚れたペスが、原田さんに抱きかかえられた。
「おぉ、よかった、ホントによかった」
「ありがとうございます。ありがとうございます。」
集まった人々は拍手していた。
翌朝、関係した人にフルーツの盛り合わせが届けられていた。
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