(経営者)「わが社の研究開発のスピードでは対応できない」
(研究開発者)「あなたが、現役のころに比べて何倍のスピードになっていると思っているんだ」
本当によくある会話である。
実際に、どちらの言うことも正しい。経営者は肌でそれを感じているし、研究開発者は、そのスピード感を体感している。
研究開発のスピードが速くなったのは、主に事業化のスピードが速くなったことによる。(主に実験を通じて)仮説検証を何十も何百も繰り返し、要求機能の発現機構を発見していく地道な作業は、今も昔も変わらない。タグチメソッドや実験計画法、またデータマイニングがPCの処理能力により劇的に高速化されようが、所詮、最適化段階での使用なので、高速化への寄与率は低い。
経営者が対応できないと考えるのは、市場の多様化と複雑化へ対応することに比べてである。
単純な話、市場の複雑化、多様化へは、一社の研究開発スピードでは対応できなくなくなっているのである。
ならば、話は早く、研究開発行為を並列化すればよい。外部資源を活用するのである。このような概念はオープンイノベーションとして語られ、P&Gや3MはこれまでのR&DをC&D(Connect & Development) の概念を取り入れ利用している[1][2]。
が、これはそんな簡単な話ではない。外部資源を利用することは、内部の研究開発者には抵抗がある。実際に、P&Gは慎重に、いや神経質に外部資源を取り入れている(『クラウドソーシング 世界の隠れた才能をあなたのビジネスに活かす方法』pp47-50)。
私はこのオープン・イノベーションの礼賛には懐疑的である。ほとんどの発明は、これまで発明されてきた概念を使用することが多く、TRIZ などでは、その概念を体系化している。また、実際の現場では、言われなくとも、複数のサプライヤー、大学と共同で研究を行っており、アイデアから商品化まで企業の境界線内で一貫するほうが珍しいからである。
さて、大よそ、企業は論文より、特許である。すなわち発明である(研究開発という言葉の定義にもよりますが、電機業界のそれをイメージしています)。
ここでの仮定は、(発明に関して)いわゆる頭脳は離散していてもいいのか(フラット化されるのか)、である。
* * * *
経験的には、似たような製品群の事業では、集積していたほうが相互作用が高く、普通は離散させるという低効率なことはしないが、発明行為に関しては、以下の興味深い研究がされている(知的財産研究所,『特許の経営・経済分析』,雄松堂出版, 2007, pp125-135;第5章 頭脳集積の必要性より)。
研究では、特許のサンプルにバイオ技術分野を用い:
①その発明者間の距離
=発明者間距離
②特許に引用されている論文(知識創出の源)とその特許の発明者との距離
=論文伝達距離
という2つの距離を定義する(ここで距離とは物理的距離)。
それらを計測した。結果:
発明者間距離:31.7km
論文伝達距離:4323.5km
*ともに中央値
と分析されている。論文=知識想像の源(研究成果が論文という形式知にまとめられている)へのアクセスは、遠くまで行われるのに対し、技術の発明は、近距離に頭脳が集積していることが重要であることを示唆している。
C&Dが発達すると言えども、知的財産の取り扱いは慎重に行わなくてはならないことから考えると、この結果は興味深い。知的財産は、クローズしなければならないからである。
そうなれば、オープン化は研究開発行為のスピードが速くなるほど、知的財産化する過程でマネジメントの時間が必要となってくる。
・・・研究開発のスピードは種々の顧客と相対的であるため、速めなければならない、ということでもないのである。
<参考文献と夏休みにお勧めの書籍>
○情報通信技術、輸送技術の発展による影響に関して
○『We are smarter than me』一読したい書籍!
○”頭脳は集積する必要があるのか”についての特許分析からの研究
知的財産研究所,『特許の経営・経済分析』,雄松堂出版, 2007.
[1] Huston, L., Sakkab, N., "Connect and Develop", Harvard Business Review, 84, No.3, March 2006.
[2] Fiocchiaro. R., "Opening an Innovation Company to External Solutions Fueling the New-Product Pipeline through External Innovation", CoDev conference, 2006, Jun30-Feb1.での発表より。
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