ビジネススクール時代、何かのリポートに記載したことがある文章である。現在の後退する経済状況からは、ソフトパワーが重視されつつあるとは言え、まず、環境と正面から向き合う施策を推し進めることが、同意を得やすいことである。それは、お金がかかるかもしれないが、多くのイノベーションを生み出すからである。
現時点で言えば、新たなエネルギー事業である。
かつて、日本には「経営の神様」がいた:(以下項目の表記は[1]より)
- いち早い事業部制の導入
- 販売制度の改革
- フィリップスとの提携
いよいよそのパナソニックが三洋電機を買収する。
一昔前、”関西の大手電機メーカー”と揶揄された企業が、日立製作所を上回る企業になる。
三洋電機の大株主といえば・・・優先株が普通株に転換された場合、米ゴールドマンサックス、大和証券SNBC、三井住友銀行であり、その優先株の保有比率はそれぞれ、41.7、41.4、16.6%である[2]。これらの割合は発行株式の7割に相当する。
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*優先株・・・普通株に優先して、配当や残余財産の分配が受けられる株式で、配当に対して優先権をもつ反面、経営参加権が与えられていないのが普通(金融用語辞典より)。
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将来有望なエネルギー事業(太陽電池や充電池)を有しながら、とにかく、ここ数年迷走を続けてきた企業である。事業を切り売りされることを阻止しながら、その相手を模索し続けてきた。現在の金融状況で、何とか、米ゴールドマンサックスの影響力は低下させたいところでもある(実際のところ、本買収に関してゴールドマンは損しなければOKであろう)。
ご存知のように、パナソニックとしては、他の子会社のようにシステムに組み込みたいのは”三洋電池”である。
重複する「半導体、AV(音響・映像)機器、白物家電などの事業は技術協力や資材の協働購買などでコスト削減を進める[2]」とされているが、選択と集中が基本の重複解消では、市場で通用する三洋ブランドが若干残る、優秀な生産部門をEMS化するなど、三洋電機の原型は残さない方向に進む。
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EMS-Electronics Manufacturing Service
電子機器製造における調達、製造、設計に加えて、物流管理等までを総合的に請け負う電子機器の受託製造サービス(経営用語の基礎知識(野村総合研究所)より)。
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さて、なぜ電池部門なのか?
多くのマスメディアは自動車との関わりを述べているが、その背景には、代替エネルギー産業には:
- 物理電池
- 化学電池
物理電池の代表格は”太陽電池”、化学電池は乾電池や充電池、燃料電池である。今回、自動車に関する電源の扱いが多いが、それは現在ではまだ、リチウムイオン電池ではない。ニッケル水素電池で、今回の合併により、その電池の自動車搭載用のシェアは98%に及ぶ[3]。
さらに、民生用のリチウムイオン電池のそれは、39%に達する。
パナソニックは太陽電池部門は比較的小さい。また、三洋と言っても、世界的には規模は小さい(国内ではシャープに続いていますが)。重要なのは、太陽電池産業は、他に比べて規模がものを言う(生産)産業である。
パナソニックは”技術”が、三洋は”時価総額”が欲しい。
両者がひとつになることで、世界有数の太陽電池メーカーを買収することが容易になるのである。
こう考えると、代替エネルギー産業は、パナソニックの経営次第なのかもしれない。
電池の産業は、パナソニックをはじめ、三洋やソニー、東芝、日立など多くの企業が参入しており、そのほとんどが乾電池の頃から操業している老舗産業である。ポッとでの企業は研究ぐらいはできるが製品化へは、そのノウハウなど、参入障壁があまりにも高く、先進的な技術を特許取得し、権利料を発生させることぐらいしかできない。
今回の動きでは、それらの電池でも充電池が注目されているが、パナソニック、三洋とも、乾電池やリチウム電池(例えば、火災報知機用など)など一次電池も多く生産している。これらも合併するのであるから、パナソニックは、三洋の技術力が高い場合は、うまく取り入れることができ、三洋が低価格戦略で販売している製品(乾電池)などは、ハイエンドをパナソニック、低価格を三洋と住み分けを行なうことができる。
そうなれば、特に市販している製品の場合、これまで”三洋”ブランドだから量販店で棚を有していなかった製品が、パナソニックになるのであるから、他企業では、狙う市場がない。
自動車用のリチウムイオン電池に関しては、他に、NECグループ、GSユアサ、日立製作所があり、パナソニックとトヨタの関係と比較的自動車メーカーと全方位的関係であった三洋とを考えると、(自動車メーカーから見て)パートナーとしてのいくつかの課題は残されるが[3]、(電池供給メーカーとしては)技術が成熟期を向えるリチウムイオン電池で独自の特色を出せるか、技術的ハードルが幾つもある燃料電池を利用するか、他企業にとっても正念場を迎える*。
*現在は、ニッケル水素電池が実質の商売アイテムなので、将来に対しての正味現在価値が減じることに対する対策となり、喫緊に利益が大幅に減じるという事態ではありません。ビッグ3がボロボロ、生産台数は激減、(このドメインで実質利益的に)苦しいのは現在電源を供給しているパナソニック、三洋のほうです。
確かに、ダイムラー、クライスラーのように技術的な融合には5年、10年といった長い時間が必要であるし、最終的には融合できない可能性もある。
とは言っても、三洋電池にあの時価総額が加わるのである。現段階では、この不景気のなか、ピッカピカになる明るい材料であることは間違いない。
・・・いずれにせよ、キーファクターは技術である。時に、技術者は行き過ぎたアメリカ型経営を毛嫌いする。何しろはじめての大きな案件である。原点を忘れさえしなければ(人材の流出を防ぐことが出来たら)、この買収は大きな成果を生むであろう。
<参考資料>
[1] 宮本又朗, 『日本の近代 11 企業家たちの挑戦
』中央公論新社,1999,pp409-413.
[2] 2008.11.8 日本経済新聞1面「三洋株、過半取得めざす、パナソニック、買収方針発表、ブランドは当面維持」。
[3] 2008.11.7 日本産業新聞3面「自動車との「間合い」課題――パナソニックはトヨタ、三洋は全方位(電機再編)」
photo by Maco
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