ソフトウェア セントリック

2011年9月28日

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ある産業、産業間の境界の定義を曖昧にして述べると、ある産業が生まれ、成長していくなかで、利益の源泉はその後工程のサービスに移行していく傾向にある。

逆に言えば、そのサービスを提供するハコモノ自体の機能を向上させることや製造することへの利益は希薄になっていく。


In short, sofware is eating the world. [1]

とは、ソフトウェア産業の近年の動向について、マーク・アンドリーセンが端的に述べているものである。

PCを製造することやその(狭義での)周辺事業での利益創出は困難になってきていることが背景にあるだろう*。

* 最近、HPがPC部門の切り離しを検討しているといっても、(伸びシロがないとはいえ)利益率は切り離し出来る程度(=約5%)には運営している。

もちろん、固定費用が重荷にならない程度の新興国などでは、”製造”自体が魅力的な事業ではある(例えば、つい最近までの台湾企業)。


ソフトウェア産業―――

大局を述べることはできないので、それとの関わりを工場について述べたいと思う。


*  *  *  *  *  *  *

雑多な工場の書類関連は手書きからワープロ、PCへと移り(単なるデジタル化)、場内での工場管理(QCなど)の数学的な演算は、手計算から計算機(ポケコンなど)、統計ソフトへと移り、見栄えや処理スピードは著しく改善された。

工場と研究所は結ばれており、離れた地方にある研究所の測定をリアルタイムで工場の設計部隊が確認できるようになった。研究作業では欠かせないディスカッションはテレビ会議で多くの人員とともに行えるようになり、密度が高くなっている。


多くの事業を操業する企業では、異なる製品であっても、同じ素材や技術を用いている場合、事業別の組織とは別に、ヨコの組織が、従来の形骸化したヨコのつながりから、タテの組織に影響を及ぼすほど成果を挙げはじめてきた。


それは、ある素材や技術に関するデータなどを議論するネットワークが社内外に関わらず、費用をほとんどかけることなく誕生したためである。

伝統的な教育は形骸化し、個人や部署単位の持つ固有のネットワークは多重化している。このネットワークの質が当該部署の成果を決する、と言っても過言ではない。


こういった中で、そのインターフェースは常に何らかのソフトウェアであって、時にハード面の進化待ちということもあったが、その役割は大きくなり、規模も巨大なものとなっている。


これらの便益は素晴らしいが、それを享受しているのは自身だけではない・・・


*  *  *  *  *  *  *




"software-centric"

種々の産業で見られるこの様は、シュムペーターのこの言葉に集約されるかもしれない―――創造的破壊(creative destruction)**

** 創造的破壊の過程:「不断に古きものを破壊し新しきものを創造して、たえず内部から経済構造を革命化する産業上の突然変異」[2] , [1]でも触れられています。


いや、すでに確立された市場を侵食しているケースであれば、業界のリーダは変遷していくはずである。


"performance oversupply"

ある製品やサービスが、いわゆる“性能の供給過剰”を起こしている時、そこでは、競争基盤に根本的な変化をもたらすものである[3]。さらに、ユーザー自身がイノベーションを起こす能力と環境が向上しているソフトウェアの環境は、イノベーションの民主化が促進されやすい***。

*** イノベーションの民主化―個人、企業に関わらず製品やサービスの(作り手であるメーカーでなく)受け手であるユーザー自身のイノベーションを起こす能力と環境が向上している状態[4]。ソフトウェアなどの無形製品はイノベーションの民主化へと向かいやすい。


業界のリーダーや古くからの企業―――これらの企業は淘汰されてしまうのであろうか?

確かに、既存組織では構成員の能力に関わらず、長年、積重ねられてきた経験、確かなプロセス(インプットを何らかの価値のあるものに変換する)、価値、組織文化・・・と染み付いているため、変化への対応は時間がかかるものである。


だが、イノベーションの源泉を構成員として考察する際、自ずから、イノベーションの方向性は、構成員の保有している情報(当該組織の暗黙知、専門性など)に依存しがちである。

イノベーションのジレンマ―――例えば、ソニーや任天堂では、当該構成員が考える「ゲームではない」ソーシャルゲームの新市場型破壊****のイノベーションに対応していかなければならなくなってしまっている。


**** 新市場型破壊―破壊的イノベーション(ある技術や変化に対しての対応可能性として、既存企業が対応できないイノベーション)のうちのひとつ。かつてのソニーのトランジスタ(関連製品)で真空管メーカーは対応が困難となり主役が入れ替わったのは典型例。もうひとつの形態はローエンド型破壊で、既存市場で顧客が製品の追加性能から得る限界効用が低減した際に、従来のビジネスモデルなどを変化させ、かなりの低価格でも魅力ある利益を得られるようにし、性能の高い製品に無関心の人々を顧客にしたもの[5]。



・・・いずれにせよ、マーク・アンドリーセンは――
"That's the big opportunity. I know where I'm putting my money."
だそうです。




<参考文献>
[1] Marc Andreessen(マーク・アンドリーセン:wikipedia),
"Why Software Is Eating The World", THE WALL STREET JOURNAL; WSJ.com, AUGUST 20, 2011.

[2] J.A. シュムペーター, 中山伊知郎, 東畑精一 訳『資本主義・社会主義・民主主義』東洋経済新報社, 1997, p130-132.

[3] Christensen, C. M., The Innovator's Dilemma: The Revolutionary National Book That Will Change the Way You Do Business, Harpercollins, 2003(玉田 俊平太 (監修), 伊豆原 弓 (翻訳) ,『イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』, 翔泳社; 増補改訂版, 2003, 第9章参考.)


[4] エリック・フォン・ヒッペル, サイコム・インターナショナル (翻訳), 『民主化するイノベーションの時代』, ファーストプレス, 2005.

[5] Christensen, C. M. & M. Raynor., The Innovator's Solution, Boston: Harvard Business School Press, 2003, (玉田 俊平太 (監修), 櫻井祐子(訳)『イノベーションへの解 利益ある成長に向けて』, 翔泳社, 2003, 第4章参考)

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