【失敗しない設計】公理的設計の観点から振り返る事例(2)タグチメソッドと設計公理

2024年4月2日

設計理論の考察(実践への応用)

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失敗しない設計


 今日のケースでは、成形品の微細クラックの問題を抱えていたチームが、タグチメソッドを適用し、実践設備から量産設備へのスケールアップに成功した内容です。


本投稿では、公理的設計とタグチメソッドについて記述していきますが、この話題で公理的設計にて押さえておくのは情報公理です。


情報公理:設計における情報の量を最小化すべきとする原則
(最良の設計では、その情報量が最小であるような、機能的に独立した設計になっている。)


以下少し一般論になりますので、タグチの話はこちらから飛んでください

この公理に関して;当該生産システムの能力をシステム範囲(生産可能な範囲)、設計者が決めたDP(設計変数)に関する許容範囲を設計範囲とすると、システム範囲と設計範囲の重なる部分は共通範囲とされ―。
*要は製造系であれば、設備の能力範囲をシステム能力(できる範囲)としたとき、設計側が指定する範囲が設計範囲(中沢, 「公理論的設計法」で図6がよくわかります)。


情報量Iの定義は、I=log(システム範囲)/(共通範囲)


と書けるため[2]、「公理2 情報量を最小に」に従うと、システム範囲を減らすか、共通範囲を増やすかです。


情報公理に関しては、上記が一般的な考え方です。


ここからタグチメソッドの記載です

 加えて、情報公理における情報の減少へは、上記を利用する場合もありますが、もう一つ有効なのは、タグチメソッドです。


原則的には独立公理を満たすことが前提です。タグチメソッドでいうと、当該設計での出力(応答)はFR(必要機能)、制御因子はDP(設計変数)としてSN比を算出した場合、SN比が最大化するDPが、そのFRに最大の影響を及ぼす主DPとなります。タグチメソッドでは、あるFRに対応する主DPを求めることができ、独立公理を満たすとは、この主DPとFRの数を等しくすることを意味しています。


こういった観点から、タグチメソッドは設計公理に従っている、としています(以上 [2], 4.9、5.8趣意)。


ケースでは、微細クラックが発生する工程のDPに対するPVの関係は冗長的で、オペレータの経験によるところが大きかった状況でした。結果的に主PVの把握により・・・と纏めたいところですが、後だしジャンケン的な言い分をすると、当初、工程を設計する際により深く、FR -> DP -> PVの議論を深めていれば・・・と悔やまれます。


(こぼれ話)
タグチメソッド、また実験計画法を活用されている方は、上記のケースで、うまくいったのはたまたまであると思われるかもしれませんが・・・その通りだと思います。制御できる因子、また、SN比が有利な条件が好適であったので、スケールアップの際助かりました。


実は、この実験の際にアドバイスをくれたのは、製造現場のベテランでした。当初、チームでは実験数が増加する懸念から、ベテランの提案は訝しむ声がありましたが、結果がすべてを示してくれました。


近年、AIによる技術伝承が話題にも挙がりますが、肌感覚的なコメントをすれば、何かの問題が発生した際のアプローチはヒトが担う分野かと感じます。

参考:
[1] Nam Pyo Suh(原著),中尾 政之 (翻訳), 飯野 謙次 (翻訳), 畑村 洋太郎 (翻訳)『公理的設計』,  森北出版,2004.
[2] Nam P. Suh (原名), 畑村 洋太郎 (翻訳), 『設計の原理』, 朝倉書店,1992.
*TRIZについては、TRIZホームページが非常に参考になります。

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