その母なる“トヨタ生産方式”について野中はトヨタトップの話を引用し:
トヨタ生産方式の本質はマニュアルではなく、「暗黙知と形式知のスパイラルアップの実践的プロセスの中にある」
と評している[1]。
また、米国自動車産業の衰退に関して、野中は「実践知の作法の退化[1]」、また、藤本は「統合型製品開発力不足」を挙げ、奇策のない地道な組織能力の向上を述べている[2]。
とはいうものの、代表的に自動車産業が取り組むカンバン方式も、その効果を享受できるのは、デンソー社長加藤宣明氏が回顧しているように:
ラインの長である班長は、こちらが指定した数などお構いなしに、部品がある分だけ作ってしまうのです。工場のあちこちに仕掛かり品ができてムダが増える。
のような状態であり[3]、現代では、このような野放図な工場を探すほうが難しい。
この生産方式の大きな利点は、トヨタの自動車でいうならば、工場において、レクサスの後にカローラが流れてきても、製造できることである。
これは、同じ車種であっても顧客の要望は様々であり、車種が増えれば、ねずみ算式に最終形態の数が増えていく。
そのようなことをデータベース化するよりは(ここではシステム化っぽい意味でのデータベース化です)、カンバンで対応し、部材を下で請けてもらい、自動車工場中心に集積化し、ジャスト・イン・タイムで製造する、といった部品点数が多い(在庫を持ち始めたらきりがない)自動車ならではの秀逸な製造方法である。
ただ、ジャスト・イン・タイムとは言っても、自動車が顧客に届くことを意味しているのではなく、安売りレクサス(HS)の納車待ちも約7カ月であるように[4]、工場で製造することにおいて、ジャスト・イン・タイムである意味合いは強い*。
*今年(2009年)5月のプリウス狂想曲の際の納車待ち(最大8ヶ月)[5]も含め、エコカー補助の影響は確かに否めない背景である。
さて、ここまでを纏めると:
この生産方法は、自動車を製造する点において、よく考えられ、地道な努力により築かれた方法である、ということである。
(つづく)
<参考>
[1] 「米自動車危機教訓と展望(上)一橋大学名誉教授野中郁次郎氏(経済教室)」, 2009/05/20, 日本経済新聞, 朝刊, 23面.
[2] 「米自動車危機教訓と展望(下)東京大学教授藤本隆宏氏(経済教室)」, 2009/05/22, 日本経済新聞, 朝刊, 29面.
[3] 「デンソー社長加藤宣明氏(上)トヨタ方式、浸透に奔走(私の課長時代)」, 2009/05/11, 日本経済新聞 朝刊, 11面.
[4] 「「レクサス」5年目の好調、ブランド・拡販どう両立――新HV車、低価格でヒット。」, 2009/08/25, 日経産業新聞, 13面.
[5] 「プリウス人気、業界地殻変動、発売1ヵ月で受注18万台突破。」, 2009/06/29, 日経産業新聞, 12面.
<関連記事>
○結局、トヨタの評価ってどうなのよ!?
○永遠の法則はないでしょう。。。
○成功するカイゼン、失敗するカイゼン1/2
○成功するカイゼン、失敗するカイゼン2/2
○モジュール化する自動車産業の今後 1/2
○モジュール化する自動車産業の今後 2/2
0 件のコメント:
コメントを投稿