「なんでも次の会計基準から、開発費は資産計上するらしいよ」
「は?BS?」
「(当たり前の話、製品を)売ってないよね」
「そうだね、経費は発生してないね」
「もし、売れ残ったら・・・?」
「償却だろうね。」
「開発費を?」
現在、欧州での標準であるIFRS*1は2014~2015年には、米国、日本でも適用が開始される。
*1)IFRS:国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards、IFRSs、IFRS)とは、国際会計基準審議会(IASB)によって設定される会計基準;by Wikipedia
ということは、欧州をはじめ、世界が共通の基準を用いることとなるのであるが、結構、日本の商慣習では、考えをシフトさせなければならないことが多い。この“考えのシフト”の起因するところは、日本は従来からPL中心であることによる。
*日本の会計基準との主な違いは、Wikipediaの中ごろに記載されているので、詳細はそちらで確認できます。
このブログでは、冒頭での「研究開発費」に関して、IFRSの特徴などを含めて、以下に記載したいと思う。
* * * *
IFRSは、多くのサイトで解説されているとおり、大きな特徴としては、投資家目線であることである。
特徴としては、原則主義、BS重視、公正価値評価の範囲拡大*2、が挙げられる。
*2)IFRSの特徴の詳細は、こちらでも解説されています。
BSベースの利益は、これまでとは利益に関する考え方が異なってくる。極端に言えば、PL的な「売上を積上げていく」というよりは、「優良資産を積上げていく」という感じであり、(投資家により)将来のキャッシュフローの創出能力を査定されていると言ってよい。
要は、よく経営者が言う「いくらの売り上げにつながるか考えて動いてる?」を第一義に置くことではなく、「どれほどの価値を生み出している?」が主眼となるのである。
この会計基準の変更は、単に財務会計対応レベルで済ますことも可能であるが、多くの一部上場企業はグローバルに展開していることを考えると、経営陣は社内的にも組織化のあり方を再考しなければならないし、社外的にはグループ全体の状況を表明することもでき、経営管理基盤を構築するいい機会ではある。
* * * *
本題の研究開発費用であるが、現在、日本では、原則として、発生時に費用処理を行なってきたが、「IFRSでは、資産価値を適正評価するという観点から,開発局面における支出は一定の要件を満たす場合に,無形資産計上が必要」となっている*3。
一定の要件とは、以下である*3。
1. 技術的に実現可能である
2. 無形資産を完成させ,使用または販売する意図がある
3. 無形資産を使用し,販売する能力がある
4. 将来の経済的便益をもたらす可能性が高い
5. 無形資産を完成させ,使用または販売するための適切な技術的資源・財務的資源などの資源が入手できる
6. 無形資産に帰属する支出を信頼性をもって測定できる
*3)ITpro、アクセンチュア IFRSチームによる解説「[13]研究開発費 」より。
この影響、及び対応は、研究フェーズ、開発フェーズ、生産フェーズで明確にコスト区分を行なわなければならないし、資産化対象コストを定義し、使用可能期間、将来の経済価値の算定を行なわなければならない。
また、当然、これにより、知財戦略や研究開発投資戦略は見直していかなければならない。
なんだか大変である。
ここで記載したフェーズとは:
- 研究フェーズ:基礎、応用研究など
- 開発フェーズ:製品企画~量産テスト
- 生産フェーズ:量産品の設計、試作-> 生産
私のMBA時代の研究は、研究開発プロジェクトの価値評価であったが、いわゆる無形資産(=知的資産)はいくら?というものであるが、このような3フェーズに分けて評価した開発案件もある。
これは典型的な型で、意思決定に、
●研究->開発(基礎、応用研究の成否)
●開発->生産(製品の成否)
を含め、結局は、製品、市場の不確実性を考慮した価値を算出しやすい。近年では、リアル・オプション分析が代表的である。
不確実性-おそらくは、最も高いのは、石油採掘のような天然資源採掘型産業で、その次は、製薬であろう。
では、欧州の製薬業界、IFRSでの対応は気になるところであるが・・・
そのほとんどは、資産計上はほとんどおこなっていない。認可や製品化までのフェーズを考えても、不確実性が高すぎて、将来的な製品(製薬)にひもつきが出来ない。
対して、自動車業界では、相当程度の開発費を資産計上している。この業界は、コスト区分が行ないやすいのであろう。
電機などの他の業界は、様々である。製造する製品によるのはいうまでもないし、電機などは、種々の製品を製造するので、ローテクからハイテクまでの製品で、グループ企業共通で、しかも、統一的にコスト区分をするシステムやルールを策定することは非常に困難である。
皮肉なことだが、不確実性の対応に関して、研究が進み、その研究開発の価値評価が進んでいる業界ほど、開発の資産計上は行なわれにくい(ある意味皮肉でもなく当然かもしれないが・・・)。
さて、現段階で何をすべきか?
第一には、学習することである。最早、財務は全従業員の必須科目である。
第二に、やはり、すでに導入されているEUの事例である。
そうすれば、現在の日本、また当該企業とのギャップが判明していく。それらをピックアップすることが後々の導入時に大切である(わけのわからないコンサルに高い料金を払わなくてもいいように)。
最も大切なことは、経営陣が、IFRSに対してどう対応するか、その姿勢を明確にしておくことである。
上述のように、やりようによっては、経営管理の基盤にもなりうる(そう利用できる)ので、財務会計上の対応に止めるのか(いわゆる開示対応のみ;これが悪いわけではない、状況によっては有力な選択肢である)、それとも、グループ各社の標準化にまでしていくのか(これには、当然内部の組織編制も教育も時間がかかる)、などである。
研究開発的には、価値評価を含めて、(研究者でありながら、また開発者でありながら)財務的にも強い従業員が育つことは、ある意味人的な資産であるし、どうせ、幹部候補には教育しなければならない財務なので、この際にどっぷり教育するのもいいかもしれない(経理以外の人は、まだまだ時間的な余裕がありますので)。
・・・にしても、金融ビッグバン以降、ずーっと経理は大変ですよねぇ、ホント。
<参考にしたサイト、内容>
○国際財務報告基準(Wikipedia)
○公認会計士 植木健介さんのサイト、エントリー「国際会計基準(IFRS)と日本基準の差異に関するメモ【無形資産】」より。
○ITpro、アクセンチュア IFRSチームによる解説「[13]研究開発費 」
○あずさ監査法人HP、「企業経営に関するトピック解説」IFRS基礎講座
○会計・監査と経営の情報ポータル―IFRS導入の世界での潮流と日本の対応―なぜIFRSが選ばれるのか―第3回
○大前研一アワー#255 12月19日の内容より。
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