前回記事の宿題で、今回の調査対象は『公理的設計』『設計の原理』(*いずれもSuh博士による)を挙げました。
この記事では、上記書籍を参考に、公理的設計とはどのような特徴を持つのか述べ、失敗しない設計の特徴を紹介します。まずは、公理的設計は下の表に記載するように2つの公理から始まります。
表 公理的設計について
参考:公理の別の表現
独立公理
①最適な設計では、FRの独立は常に保たれる
②容認できる設計においては、あるDPは対応するFRだけを満足させ、他のFRには影響しないようにFRとDPは1対1の対応をもっている。
情報公理
最良の設計では、その情報量が最小であるような、機能的に独立した設計になっている。
*[2], p44
*FR:必要機能、DP:設計変数
いずれの書籍も2つの公理の説明がなされ、そこから「系」「定理」が展開されていきますが、詰まるところ、上表につきます。参考までに系は以下([1] 付録1-A)。
- 系1:干渉設計の独立化
- 系2:FRの最小化
- 系3:部品の統合
- 系4:標準の利用
- 系5:対称性の利用
- 系6:設計許容範囲の最大化
- 系7:情報量の小さい独立設計
- 系8:有効なスカラー直角率
例えば、日本で過去に見られた、職人技の工程を頼りにした設計は、許容範囲が小さい点で公理2に反しています(ただ、当時はそれでよかったのかもしれません)。
設計者が陥りやすい共通の失敗
では、[1](p62)で述べられている設計者が陥りやすい共通の失敗を見ていきましょう(以前こちらの記事でも記載した設計における4つの領域から説明しています)。
それは、FRを要求機能(製造系でいえば、製品に指定された必要機能)、DRを設計変数とすると(同じくFRを満たす実体変数)、(FRに比べて )DP数が不十分で干渉するか、DP数が過多で冗長であるか、であり、つまりは、干渉設計、冗長設計を示唆しています。
また、上でも言及した、設計者が実際の生産システムでは製作不可能なほど許容範囲を小さくするのは、情報量が大きくなり、複雑化(考慮すべき変数、パラメーターが増加)を招いてしまい公理②に反してしまいます。
ここで、[2]p147より、熱処理に関する情報量として、ブリネル硬さの例が述べられており、わかりやすいので紹介します。
ある設計において、設計範囲が200±10kg/mm2、熱処理プロセスのシステム範囲は190±20kg/mm2だとすると、共通範囲は20kg/mm2となります。このときの情報量は、I=log(システム範囲/共通範囲)とすることができるので、設計者としては、この熱処理プロセスを使用するのであれば、190kg/mm2以下でも使用できるようするなど(=共通範囲を大きくすれば)、情報量は小さくすることができます。
*情報公理、また系6: 許容範囲の最大化=FRを設定する場合、許容範囲を可能限り大きくせよ、がこの場合の設計ルール的なニュアンスになっています。
あくまでも、公理を満たしていくことを志向しています。
他の方法論について
②TRIZ:TRIZが矛盾の法則に基づいて、FR(要求機能)とC(制約条件)の両方を満足するDP(設計変数)を提案するために用いられるため([1]p69)。
まとめ
このシリーズ最初の記事で記載した;設計研究の成果を分類した図(記事はこちら)において、今後は背景にAIが発展している視点を加えなければなりません。とはいえ、公理的設計が提供するアプローチは、設計プロセスの論理的かつ効率的な構造なので、つまるところ、成功のカギは、常にユーザーのニーズを最優先に考え、設計の各段階で公理を念頭に置くことに変わりはありません。
*本シリーズへのコメントはこちらのサイトへお願いいたします。
参考:
[1] Nam Pyo Suh(原著),中尾 政之 (翻訳), 飯野 謙次 (翻訳), 畑村 洋太郎 (翻訳)『公理的設計』, 森北出版,2004.
[2] Nam P. Suh (原名), 畑村 洋太郎 (翻訳), 『設計の原理』, 朝倉書店,1992.
*TRIZについては、TRIZホームページが非常に参考になります。
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