エコカー用電池、競争激化

2008年5月27日

気になるニュース 電池の話

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エコカー用電池、競争激化 3陣営相次ぎ量産態勢(asahi.comより)との記事から、自動車、電機メーカーの競争が激化していることがわかる。はっきり言って、この競争の構図は、経営能力競争であり、伝統的企業の経営能力を計る試金石である。

現在のハイブリッド車はニッケル水素電池が主流である。それを携帯電話、ノートPCで採用されているリチウムイオン電池を搭載するというのが、業界の動きである。

記事によると:
合弁会社:日産-NEC、トヨタ-松下、三菱自-ジーエス・ユアサ
グループ合弁:日立製作所とグループ子会社
単独:三洋電機

の体制である。

電池の大型化には、指数関数的に危険性が増すため、通常、電機メーカーでは、管理上ポイントの低かった「人命に及ぶ危機」の対策が必要になる。具体的には、品質管理が変更される。この変更により、購買から出荷の業務手順が変更されるため、従来のバリューチェーンと同様のシステムの併用は困難となる。

クリステンセンが『イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)』で提示したように、同じ製品とはいえ、バリューネットワーク(サプライヤー、顧客)が変わるため、三洋電機のように単独で事業を行う時には、「車用電池事業部」など、従来の事業部や会社組織とは別にしなければ、マネジメントは困難である。

クリステンセンの概念は、これまでの日本企業に適合しにくかったが(例えば、iPodが現われても、ソニーは業界に生き残り、存在感を示している。決して、滅んでいってはいない)、充電池業界でトッププレーヤーである三洋電機が、クリステンセンを喜ばすようなマネージメントをしてしまうと、三洋電機自体の敗戦が確定的になる。

また、自動車-電機合弁企業では、経営云々より、お互いのノウハウが漏れないことに最大のプライオリティを置くため、かなり以前から電機・電池メーカーの従業員を多く取り込んでいる自動車メーカーは有利である。内ゲバは競争相手にとって最もお金のかからないアドバンテージでもあるが…。

企業の大きさからみても、電機は、トヨタが松下電池工業を買えるぐらい小さすぎる(注:実際は松下電器が株を有しているので買えません)ので、資金力にものを言わせて、ジワジワと中核技術をものにされてしまう。

さらには、電機の売上高に対する営業利益率は業界平均で7%であるが、輸送機器は5%である。ただし、トヨタ、ホンダが10%弱であることを考えると、単なる一部品メーカーとなり、ジャストインタイムに対応するため、従来より在庫を持ち、企業の力関係から安く買い叩かれ…効率は低下する。

単独、自動車-電機合弁の中間が日立製作所のグループ合弁であるが、日立製作所自体が、現在、経営能力を測定されている重要な時期であるため、イニシアティブをとることが困難で、単なる寄せ集めの能力しか発揮できない。

この業界動向の背景には、韓国などの追い上げがある。韓国での自動車生産は今年(2008年)に600万台を突破する見込みである( 韓国自動車生産、ことし600万台突破の見通し、ちなみに昨年の日本は約1,159万台)。ハイブリッドが主要事業として利益を創出しているわけではないので、かつての日本が低価格高品質を実現し、米国市場へ参入していったことと同様、今回は経済成長国への参入で、同様の競争が起きている。

もう一つは、原油価格高騰である。これは、どのメーカーも共通の外部要因なのであるが、エネルギーは、あまりにも価格が高騰すれば、代替エネルギーが生まれるため、ガソリン価格が2倍なり、仮にハイブリッドが2倍の燃費であれば、ハイブリッドに意味はなく、代替品へシフトする。

この価格の高騰は投機の色が濃く、いずれパンクするので、協調して代替エネルギーへの投資も逓減していく。そうすれば、ハイブリッドの電池がニッケル水素からリチウムイオンへシフトするには、リスクが大きすぎる。

リーダー企業でハイブリッド自動車を市場に送り出したトヨタは始動している。
ホンダは様子見(リチウムイオンはリース用の燃料電池車と併用)、来年の新商品もニッケル水素のハイブリッドだそうである。

技術的には、ホンダのニッケル水素、リチウムイオンの使用の仕方が最も安全である。しかし、トヨタはハイブリッド車を開発した企業である。

・・・どうでしょうか、日本を代表する企業が集結した今回の動き。まさに各社の経営手腕次第でどうにでも転びます。注目です。
ちなみに・・・私はリチウムイオンを搭載した車は買わないでしょう。。。

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