このシリーズの記事では、「失敗しない設計」と題して、過去に記載したケースを公理的設計の観点から振り返ります。今回は、特に業界で高評価を受けたX社の素材開発に焦点を当てて、その設計プロセスと遭遇した課題について詳しく見ていきます。
素材開発の設計課題
素材を製造する工程では、特に狭い温度幅のなかで特定の加工をするなどコントロールが困難な場合があります。このケースでは、設定温度の幅の狭さと加工寸法の限定性が、量産レベルでの歩留まりを低下させていました。素材開発の一般的な設計目標は、特定の機能を果たす素材を創出することですが、合わせて製造プロセスも公理的でなければなりません。
ここでは、必要機能(FR:Function Requirement)を満たす物質構造(DP:Design Parameter)を設計し、製造プロセス(PV:Process Variable)を通じて、設計通りの物質構造を生み出すことが求められます。
*PV(プロセス変数):[1]では、わかりやすく「プロセス領域の生産条件」としています。[2]では、DPは”何を達成したいか”を表現し、PVは”どのようにDPを満たしたいか”である、と説明されています(例 DPが梁の長さならPVは鋸)。
このケースは「混合合金プロセス」([2], p199~206)に類似していました。基本的に、「化学組成とプロセス条件はかなり干渉」し、「プロセスに無理が押しつけられている」ことが特徴的です。
例えば、FRの一つに「高い強度」が挙がり、DPの一つに「結晶サイズの粒度」が挙がります。この時、{DPn} -> [ A ] {PVn} の式のPVはDPのいくつかに影響し干渉設計となるか、数多くのPVが挙がり冗長的になり、複雑化を招くかになりやすいのが、素材開発の特徴です。
(注)設計公理に関してはFR、DP、PV階層のすべてのレベルに適用可能です。
設計公理の適用とその重要性
当該ケースは、まさに、この複雑化を招いたもので独立公理に反していました。製造時の狭い条件を緩和することは困難で、ピンポイントの条件出し=いくつかのPVを作用させDPを満たすことは、職人技になっていたのです。
また、ケース記事では、当初、製品化に成功したものの、その後、採用例がなかったことが記載されています。上記の問題はどのように反映されたのでしょうか?それは、予定していた工程に特殊な外注工程を加えなければならないことでした。
まとめと教訓
このシリーズを通じて、「失敗しない設計」を実現するための公理的設計の原則を再確認しました。特に、ケースでは設計変数とプロセス変数の適切な管理が、高品質な素材開発を達成する鍵であることが理解されました。また、設計の複雑化を避け、シンプルで効果的な解決策を模索することの重要性も強調されました。失敗例から学ぶことで、より良い設計戦略を立て、失敗しない設計への道を切り開くことができます。
些細なことのように思えるかもしれませんが、見逃せない点は、研究段階で業界から高く評価されることが、「高価格の製品でも市場が受け入れる」という根拠のない自信をもたらし、量産化に向けた取り組みを鈍化させてしまったことです。
参考)公理的設計についてはこちらでまとめていますのでご参照ください。
参考:
[1] Nam Pyo Suh(原著),中尾 政之 (翻訳), 飯野 謙次 (翻訳), 畑村 洋太郎 (翻訳)『公理的設計』, 森北出版,2004.
[2] Nam P. Suh (原名), 畑村 洋太郎 (翻訳), 『設計の原理』, 朝倉書店,1992.
*TRIZについては、TRIZホームページが非常に参考になります。
[1] Nam Pyo Suh(原著),中尾 政之 (翻訳), 飯野 謙次 (翻訳), 畑村 洋太郎 (翻訳)『公理的設計』, 森北出版,2004.
[2] Nam P. Suh (原名), 畑村 洋太郎 (翻訳), 『設計の原理』, 朝倉書店,1992.
*TRIZについては、TRIZホームページが非常に参考になります。
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