スペックの落とし穴。

2010年5月19日

統計解析

t f B! P L
「9.0±1.0mmの部品Aと5.0±0.5mmの部品Bを積重ねると、その寸法は?」


物理、化学系を卒業した新入社員は、学生実験の際に学習した測定精度の概念を使用し、部品A、Bを1個ずつ積上げるので、±○○を誤差と考えれば、

(誤差)=(1.0^2 + 0.5^2)^0.5 = 1.1

となり、

14.0±1.1mm

と答えるだろう。スジがいいです。

ただ、それは、測定精度なので、やはり、対象は測定器の誤差の積上げに用いる方が好適である。


(過去の“測定精度”や“測定”に関連した記事)
50±2gのA,B金属を接合、合計質量は?①
50±2gのA,B金属を接合、合計質量は?②(②で終わり)
データのズレ―それは、測定器の違いです。1/2
データのズレ―それは、測定器の違いです。2/2



また、ありきたりなシミュレーションを行なうと、仮に、各部品の寸法が、何かしらの規格を満たし、その工程能力において、Cpk=1.33程度であったとする*。単純な足し算に、分布は正規分布を仮定し、試行回数を10,000回でシミュレーションを実施すると、以下のような感じ(ソフトウェアはCrystall Ball)。

*例えば、部品Aにおいては、9.0±1.0mmなので、8.0~10.0mmの間=2.0mmは、12の標準偏差からなると仮定している(計算上の標準偏差=2.0/12)。




同様に、工程能力を考慮すれば:

14.0±2.2mm

となる。


だが、グラフからも分かるように、13.5~14.5mmで99%以上のデータが存在する(99.7%程度だろう)。だからといって、いいのか?悪いのか?


それは、その検査を伴う工程による。大問題の場合もあるし、全く問題にならない場合もある。


この数字を頭に入れると、次の議論がいかに的を射ていないかがわかる。


「部品A、Bの最小値、最大値はそれぞれ、(8.0mm 4.5mm、10.0mm 5.5mm)なのだから、A+Bは12.5mm~15.5mm。これらの、値になったらどうするの?」


12.5mm?15.5mm?での議論?


A+Bの平均値は14.0mmで、先ほどのシミュレーションから標準偏差は0.186である。14.0mmからは約8標準偏差離れている(0.186×8=1.488)。何度も言うが、部品A、Bそれぞれの工程能力は1.33程度である(=製作されているor納入されている)。


すると・・・12.5mm、15.5mmをリミットとした時のCpkは、軽く2.00を越える(2.5程度)。その確率は1ppmもないだろう。


その工程での生産単位が、月に10,000単位程度であれば、8~9年に一度あるかないかの確率である。


次の工程で、こういったことまで想定した作業や行為といった準備を行なうのは、膨大な費用が発生する。


論点を変えれば、設計する際の“マージン”も上と同様な場合がある(取り過ぎている)。このようなことが連綿と積み重なって完成された製品というのは、本当に、大丈夫なのだろうか?


・・・安全を危惧しすぎて、逆に危険である。



<関連記事:再掲載(上と同じです)>
今日の記事は、以前にも記載したことがあります。
50±2gのA,B金属を接合、合計質量は?①
50±2gのA,B金属を接合、合計質量は?②(②で終わり)

<参考までに>
シミュレーション入門(正規分布限定ならエクセルで行なえます)
工程能力分析

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