技術者のジレンマ:ダイハツ不正問題の根底にあるもの

2024年1月14日

01 経営管理の視点

t f B! P L

本記事では、昨今のダイハツの不正問題などを契機に技術者の「ジレンマ」をキーワードに技術者の倫理的ジレンマを考えます。 



本ブログ運営者のキャリアのほとんどは何らかの設計に携わってきました。数々の製品化、またプロジェクトにおいて、中には決して許されない誘惑に駆られることも確かにありました。


そのトリガーを引いてしまうのは、どのような状況なのでしょうか?


遡ること17年前、本ブログでは「経営倫理」「企業乱る時」と題して、企業の不祥事、行き過ぎた業績至上主義が非倫理的な行動を生む、等の記事を掲載しました。


背景には2000年代も昨今のニュースと同じぐらいショックの大きな出来事が発生していました。


集団食中毒、食肉偽装、自動車の苦情・リコール隠し、原子炉の損傷隠し・点検記録の改竄、防衛装備品の代金水増し請求、有価証券報告書虚偽記載、粉飾決算など(青木,「企業不祥事の事後的対応をめぐる経営者の意思決定」,高松大学研究紀要(第54・55合併号), 2011, p12 表1 1960年代後半以降の日本企業の不祥事を参照)


このような出来事は、当該業界全体にとって重要な教訓を提供します。倫理的な判断と品質管理のバランスを取ることは、企業の持続可能性に不可欠なはずです。


ここからは、以下の2点を挙げ、記載していきます。

  • 短期開発のプレッシャーと倫理的ジレンマ
  • 品質とスピードのバランスの難しさ


・短期開発のプレッシャーと倫理的ジレンマ


技術開発の世界では、不確実性が高まる状況に加えて、市場の要求は日々変化し、常に次のイノベーションへの競争が激化しています。この急ピッチな開発の背後に、技術者が直面する倫理的ジレンマが潜んでいます。この状況下で次製品に備えるためには、いくつかの選択肢(オプション)を持つ必要がありますが、当然、これを準備するには時間を要するという矛盾が生じます。

・品質とスピードのバランスの難しさ


製品開発における最大の挑戦の一つは、品質とスピードのバランスを取ることです。開発期間が短縮されつつある市場での競争は企業に速やかな行動を促しますが、それはしばしば品質の犠牲を伴います。時に、製品の機能面ではなく、安全面に影響がある場合は深刻な状況となります。ここに、やはり倫理的なジレンマが潜みます。


時間が短縮された開発期間からは、新製品に対するオプション(選択肢)は多くは生まれません(予算、時間が限られる)。もしかすると、プランBも備えていないかもしれません。このような状況では、最終試験は絶対に合格しなければなりません。なぜなら、目下、プレスリリース、量産材料の準備、生産工程のスケジュール調整なと、すべてが新製品の登場に向けて動いているからです。合格しなければ、設計(もしくは開発)部隊の責任で遅れることは大きな損失(いや、責任問題)となり、組織的に忌み嫌う状況が待ち受けています。


かといって、再設計が簡単に容認される企業文化は、納期遅れが常態化し、企業の信用は年を追うにつれて失われていきます。


ありきたりですが、このジレンマに対応するためには、短期的な目標と長期的なビジョンのバランスが必要です。企業は、迅速な市場投入と品質保持の間で、倫理的な基準と明確な戦略を持つべきです。また、技術者個人も、プロフェッショナルとしての責任感を持ち、倫理的な判断を下すことが求められます。


案外、技術者は、長期的な展望(方向性)、戦略がはっきり示されていると、オプション(選択肢)を構築しやすいものです。オプションの準備には、他分野の研究結果待ちのものもあるため、長期的な視点からは視野に入れることができます。多くのオプションは思わぬピンチも救うこともあります。


ケーススタディ:新製品開発における安全性とスピードのジレンマ



・・・経営者は、技術者(を含む従業員)を日常業務で忙殺させてはなりません。戦略が機能しなくなります。



<当時の記事で参考にした書籍>

日本経営倫理学会監修、水谷雅一編著、『経営倫理』同文舘出版, 2003.


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エンジニアの視点から、品質技法、解析技術、生成AIについて発信しています。 (シックスシグマ・ブラックベルト、MBA)

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